音楽は、産業としては既に
破綻した業界
とされています。
これは、他の産業から音楽業界を見た場合、一般的にはそう捉えられるという事です。
▼ iPadの発売にともなって掲載された雑誌関係者のコメント
「電子雑誌が続々と登場しているのは、出版社がビジネスチャンスと感じているからではないと思います。スティーブ・ジョブスと、彼が手に持って現れた『iPad』を見て、慌てているだけです。彼が前回も同じようにiPodを持って現れた結果、音楽業界が崩壊したことを知っていますから。」
イギリスのビジネス誌 ワイアードUKより
▼ メディアビジネスに関してのアシュトン・カッチャー氏のコメント
「いまエンターテイメント業界は本当に斜陽(没落しつつあること)です。この業界にいる人間が何かを思いつかなければ、音楽業界と同じ運命を辿り、WEBに食われてしまいます。」
アメリカのビジネス誌 ファスト・カンパニーより
このように、第三者から見た音楽業界は、破綻したモデルの1つとしてしか取り上げられていません。
様々な業界が音楽業界の二の舞にならないように、日々様々な試行錯誤をしているのです。
日本よりも一足先に音楽業界が破綻したアメリカでは、様々なメジャーアーティスト達が、レーベルや事務所に属するという活動のスタイルでは無く、独自に様々な展開を行なって行くスタイルを選択しています。
また、もともとメジャーではないアーティストの成功への道にも、大きな変化が起きています。
「ブラック・アイド・ピーズ(以降:BEP)」というグループをご存知でしょうか?
アメリカのヒップホップ・ミクスチャーグループです。
BEPのリーダーであるウィル・アイ・アムは、パワーポイントで作ったBEPの「プレゼン資料」を持って、スポンサーになって欲しい企業をまわる事でも有名な人物です。
▼ ウィル・アイ・アムのコメント
「自分たちは1つのブランド。ブランドには定型化された個性があり、それをプレゼン資料にする事が出来る。その資料を使って、自分たちと組む事で得られるメリットを企業に説明するんだ。」
アメリカのビジネス誌 ウォール・ストリート・ジャーナルより
BEPにとってレコード会社とは、CD等の発売や管理の外注先であり、頼るべき存在ではありません。
またBEPは、世界のアーティストの中で3本の指に入る所得を得る事が出来ています。
もちろん何も実績の無い状態で企業をまわっても、成果を得る事は難しいと思います。
ただ、この「自らが経営者となり自らのブランドを売り込んで行く」という考え方は、これからのアーティストが音楽活動をしていく上で、とても重要な部分だと言えます。
音楽のセンスと共に
自分というブランドをアプローチ出来るセンス
が求められています。
欧米で活動する、あるバンドの事例です。
そのバンドは無名でありながら、自分たちの楽曲のクオリティにはとても自信を持っており、また、楽曲を聴いた多くの人がそのクオリティを認めていました。
その後、ライブハウスで200〜300人の動員を集められるバンドにはなったものの、それ以上の発展はありませんでした。
そんな時、
iTunesの無料ダウンロード
にピックアップされます。
メンバーは当時、とても悩みました。
1曲丸ごと無料配信をしてしまっては、今まで以上に売れなくなってしまうのではないかと。
しかし活動が停滞している事もあり、少しでもライブの動員に響けばと、無料配信を行なう事にします。
ところがその考えは、大きく裏切られます。
もちろん良い方に。
無料配信がスタートしてから、何故か曲の売上が大きく伸び始めました。
そして数ヶ月後には、2000人〜3000人を動員するライブを行なう事が可能になりました。
一定の地位を築けたと判断したそのバンドは、もう無料配信は必要無いだろうと、無料配信を停止しました。
その結果、売上が急激にダウンし、無料配信を行なう前の水準付近まで落ち込んでしまいました。
世界には、楽曲の無料配信や無料配布による成功事例が多数あります。
しかし同じくらい、失敗してしまった事例もあります。
無料配信や無料配布はとても有効なプロモーション手段と言えると共に、その方法がとても難しい手段でもあるとも言えます。
ケース_02の無料配信・無料配布に近い事例が、動画によるアプローチでも起きていますので、その中でも有名な事例を1つご紹介します。
「オーケー・ゴー」というバンドをご存知でしょうか?
アメリカ出身のロックバンドです。
彼らは2006年に、自らの楽曲である「ヒア・イット・ゴーズ・アゲイン」のPVをYouTubeにアップします。
驚くべきはその内容。
ロックバンドであるにもかかわらず、PVの中でメンバー全員がコミカルなダンスを繰り広げます。
その面白さが話題を呼び、そのPVは
数千万回
という再生回数を、あっと言う間にたたき出しました。
ブロガー達がそのPVを自らのブログに貼り、面白さを宣伝してくれたのです。
その結果、オーケー・ゴーはグラミー賞を受賞出来ました。
しかし某メジャーレコード会社は、YouTubeで楽曲を無料で聴けてしまう事を良く思わず、YouTubeでの公開こそ維持したものの、その動画のブログへの転載を禁止にしていましました。
その結果、動画の視聴率は
90%も激減
してしまいます。
「もう少しファンの自由にさせてあげれば、もっと売れていただろうに。」
アメリカのビジネス誌 ニューヨーク・タイムズより
全く、その通りです。
楽曲の権利の保護はとても大切な事です。
しかし、その「保護」という観点自体を、時代の流れと共に少し見直す必要があるのかも知れません。
このオーケー・ゴーの事例では、より大切な物を保護出来なかったと言える結果になってしまったと言えます。